『マチネの終わりに』

2017-06-30

運命にふりまわされる大人の恋愛

マチネの終わりに去年11月「アメトーーク」の読書芸人の回で、オードリーの若林さんと、芥川賞作家の又吉さんが「2016年のおすすめ本」として挙げていて興味が湧いた。

38歳のクラシックギタリストと2つ年上のジャーナリストの女性の恋愛のものがたり。

図書館で予約したが、すでに予約がいっぱいでようやく半年後6月に私の番が来た。帰省のお伴に持っていき新幹線の中で読んだ。

2006年の出会いから2012年までお話しで、ノンフィクションではないものの主人公にはモデルがあるのだという。イラクの治安や東日本大震災などバックボーンがしっかり描かれているから、甘い恋愛の話というより現実感がある。

ひとことでいうと、おもしろかった。ふだん恋愛小説というジャンルを読むことがないから比較はできないけど、旅と相まって非日常に入り込めた。

構成がしっかりしていて展開もおもしろく、文章表現も格調高くて、これを書いた作家(平野啓一郎さん)さんはすごい頭がいい方なんだろうな、と思った。

一方で、ひとつの恋愛としてみたら、どこかしら観念的で女というものがいくぶん美化されているように感じた。

ちょっとしたすれ違いと第三者の嫉妬から、恋する二人が真相を確かめることなく誤解が誤解を生み運命に翻弄されていく様子はさながらかつてのメロドラマみたいでもどかしく、はらはらした。とっても大事なことを会って確かめることなく諦めることなんて、実際ににあるもんかな、と不思議に感じた。

たぶん、あるんだろうし、だから美しくお話にもなるのかもしれないけど、、。

自分の嘘から「ライバル」を陥れ主人公と結婚した「妻」が良心の呵責から嘘を主人公に吐露する場面があるけど、実感から言うと、女ってもっと生々しいもので「秘密は墓場まで持っていく」ことができるふてぶてしさもあるように思う。それは善悪というモノサシではなくて、自己の存在を賭けて生きているようなところがあるから。

未来は常に過去を変えている

この話には、「人が変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えている。」という考え方が流れている。

未来のできごとによって過去の意味づけというものは変わる。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去はそれくらい繊細なものなのだという。

そう、過去のできごとは変わらなくてもその意味づけや上塗りされるイメージによって変化する。

過去も未来もほんとうはない、というACIMとは別次元の話だけど。

ヒロインの女性はクロアチア人の映画監督と日本人の母を持つハーフで、シングルマザーに育てられ「父から捨てられその存在を経歴から葬られた」と思って育ったが、文中でそれは誤解だったとわかったところがあった。それによって、彼女の未来も変わった。

それがよかった… 沁みた。

主人公がギタリストだから、作中にはいろんな曲も登場する。そうした曲を集めたタイアップCDが発売されているそうだ。

それも聴いてみたい。

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