翻訳教室の風景ー翻訳って人によって違うんだな~

2019-10-28

訳して楽しい!?翻訳教室2回目

ワプニック先生のテキスト解説本『Journey through the Text of A Course in Miracle(JTTA)』の読解に役立つかな~、と8月に申し込んだ全3回日程の翻訳教室、その2回目が先週あった。

今回は受講者5名があらかじめ提出した課題英文の訳を、みんなで見ていくというもの。課題文は19世紀のイギリスを舞台とした小説の冒頭部分で、侯爵と従者、宿屋の主人とその妻が出てくる。

場面や会話を頭の中でイメージしてそれを日本語に変換するから、英語力もさることながら想像力と日本語力の比重が高い気がした。まずその場面をイメージするのがけっこう難しく(19世紀のイギリスの宿ってー、身分てー?)、イメージしたところで適した日本語を見つけるのに往生し、私はまたまたえらい時間がかかった。

この教室は、タイトルに「訳して楽しい」と付いているが訳文を作っているときは「どこが楽しいのー!?」となって、受講したことを後悔した。

翻訳者によってまったく別物になるんだな~

しかし、2回目の教室は思いのほか楽しかった。

5名それぞれの訳文がかなり違っていて、「翻訳には唯一の正解ってないんだな~」「翻訳者によってまったく別物になるんだな~」とわかり、それが面白かったのだ。

まずお話は冒頭、主人公である公爵が身分をやつして宿屋で部屋を求めるセリフ、「“What do you mean, fellow, by telling me there is no room to be had in this inn?”」から始まるのだけれど、キャラクターがみんなそれぞれちがう。

「…空き部屋がないとは、どういうことですか?」と丁寧語で聞く公爵もいれば、

「どういうことかね?」と聞く公爵も。この訳は「年上感が出すぎ」と先生から言われた。

私は「おい君、部屋が取れないって、どういうことだ」としていたが、先生からは「カジュアルすぎ」との指摘をいただいた。「もう少し偉そう感を出して」と。

若さとかっこよさがあり最も感じがつかめていると先生に認められたのは、「どういうことかな君、この宿には空きがないっていうのか?」だった。

次の行、その公爵に対する宿屋の主人の対応、「The landlord of The Bell glanced nervously up at the tall figure on the inn threshold.」のnervouslyの訳も人それぞれ。

Aさん「イライラしながら(見上げた)」、Bさん「不安そうに」、Cさん「落ち着きなく」、Dさん「神経質に」、私「神経をピリつかせて」。

先生の模範解答は「そわそわと」。ここは「イライラしながら」というより、落ち着きのなさを出した方がいいのだとか。

宿屋の主人の「wife」の訳も、「妻」から「夫人」「女将」など様々。先生の模範は「女房」だった。

たった数行でもお話の雰囲気がぜんぜん違う。5名の受講者の具体例があるから、それを目の当たりにできて「なるほどなぁ」と感心した。

結局、満室だったこの宿屋、妻が、若い知り合い同士の客の2部屋を「They’d rack up together .」とまとめることを提案する。この状況について私は「相部屋」という語を思いつかず「一部屋にしてもらう」としてしまっていた。他の方の訳文を見て、「そっか、相部屋か!」と言葉を思い出した。

偉ぶった公爵は、宿屋の女房が「お部屋が取れそうです。」と伝えにいった際、「He smiled suddenly, a smile of dazzling sweetness …」と態度を変える。

そこは私は「紳士はふいに顔をほころばせた。その微笑みはまばゆいばかりに甘く…」と訳していたが、smileについて「ほころばせた」「微笑み」と違う言葉を選んだことについて先生に「工夫があっていい」と言ってもらえた。

たった一回訳文を作っただけだけど、翻訳って深い世界だな~と思った。プロは作者の意図を正確に把握して正しく伝えること、プラス速さが大事なのだとか。

ワプニック先生の『JTTA』2章からはもう訳はやめたのだけど、翻訳のポイントである「著者の描いた場面を丁寧に想像+厳密な言葉選び」という点は、とても勉強になった。

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